開催日:2025年11月28日〜11月30日

開催場所:マレーシア パハン州テメルロー

主催:レッドアドベンチャーチーム、マレーシア女性レクリエーション協会


PHOTO & TEXT:竹村吉史(YOSHIFUMI TAKEMURA)

ジャングルでクロカン女子最強決定戦

クロスカントリーオフローディングいわゆる「クロカン」といえば、男達の趣味や競技と思われがちだが、だれがそう決めたのだろう。マレーシアではジャングルを舞台に、逞しい女性達がクロカン女子のTop of the Topを争奪する競技がある。その気迫に満ちた大会「シーマッド(SHEMUD)」を紹介したいと思う。

 2023年インドネシアのスラウェシ島で開催されたキャメルトロフィーのトリビュートツアーで出会ったヌリーン女史から、ジャングルを舞台にクロカン女子の大会を主催するから来ないかと誘いを受けた。ジャングルのような過酷な地で女性達がクロカンナンバーワンを競い合うと聞けばもう選択の余地はない、ふたつ返事でマレーシア行きを決定した。

 シーマッド・4×4チャレンジは2015年にマレーシア ジョホール州で第一回大会が開催されたのを皮切りに、翌年はネグリ・スンビラン州、2018年にスランゴールで開催され、新型コロナウイルスのパンデミックを受けて休眠していたが、第一回大会から10年を節目とした2025年、4回目となるシーマッドをパハン州で開催することになった。開催場所が毎回異なるのは、マレーシア全土にシーマッドの精神を広げて行くための、長期的展望があるからだ。

 第4回のシーマッドは、2025年11月28日から30日までの3日間にわたり、クアラルンプールから東に130kmほど向かったパハン州テメルローに於いて開催された。主催は4×4とオフローディングをこよなく愛すナリーン女史が率いるレッドアドベンチャーチームと、マレーシア女性レクリエーション協会。さらにマレーシア四輪駆動車協会や青年スポーツ省、テメルロー地区土地管理局などが強力にバックアップし、シーマッドが強固な地盤の上に成り立っているイベントだと知ることができる。

 このシーマッドは、競技の運営こそ経験豊富な男性陣が主体となっているが、その名の通りコンペティターは全員女性。ヌリーン女史が、オフロードドライビングが性別に左右されることなく、より多くの少女や女性にオフロードアドベンチャーとモータースポーツを楽しんでもらい、女性にとってもオフロードアドベンチャーの世界で力強さとスキルを得て、オフロードが自信を持てる場となるように生んだイベントが、このシーマッドなのだ。なおシーマッド・ウォーリアと名付けられた女性だけのオフロードランニングも併催され、シーマッドをフィジカルなものとして色づけしている。

 シーマッド・4×4チャレンジは、エクストリームな位置付けとなるシーマッドクラスと、ノービス向けのスピードクラスにカテゴライズされ、シーマッドクラスはV字横断や深度のあるリバークロッシングなど、ウインチを必要とするハードなクロカンセクションとして設定され、スピードクラスはマッド路面や林間路にテクニカルなカーブやタイトターン、そしてヒルクライム&ダウンなどが組み込まれたステージとなっている。今大会は新型コロナウイルス前の2018年に開催されてから7年を経ての再開だったため、コンペティターの入れ替わりなどでエントリー数が延びなかったが、シーマッドクラス4チーム、スピードクラス7チームでジャングルのオフロードに立ち向かった。

 開催日の当日は、東南アジア全域に甚大な被害をもたらしたサイクロンセニャールの影響で朝から雨が降り続き、会場の横を流れるパハン川も増水しており、川の水位を横目に会場準備が進められた。午後にコンペティションマシンの車検を終えると、その後雨の中、スタートセレモニーとなるフラッグオフとなり、そのまま式典会場奥に作られたコースでSS1がスタートした。SSはボルネオサファリなどと同様、コの字にテープが張られたスペース内にマシンを停め、ドライバー自らスタートボタンを押す公平なシステムが採用されている。シーマッドクラスはV字溝を超え、腰に達する深さのリバークロッシングを織り交ぜたセクションで、ファーストアタックとなったジムニーは堅実なウインチング作戦のようだ。ストラップを肩に、ウインチのフックを持ったコ・ドライバーがマシンから飛び降りると躊躇無く川に入っていく。アンカーにフックを固定し、ウインチラインにワイヤーダンパーを被せてドライバーに合図を送る。この安全を重視した一連の作業こそ、シーマッドの定義となるスキルと安全を通して自信を育むベクトルでもある。次いでセカンドアタックのエスクードはタイム短縮のため自走アタックを試みたものの、エンジンの不調もあって敢え無くスタック。結果的にウインチを駆使してクリアする事となった。そんな中、インドネシアからエントリーしたラトナ/ファレッツァ組のジムニーがウインチを使わずにクリアし大歓声が上がる。続いてヨー/タヒラ組のランクル70もディーゼルパワーを活かして難なくクリアしていった。先行車ほど難易度が高いのがオフロードの常なのでこれは致し方ないところだ。一方、初心者が参戦するスピードクラスは、ほぼノーマルに近いテラノやエスクード、キア・スポーテージなどSUV系が主流。そのためシーマッドクラスより難度の低いコースが設定されている。とはいえタイムを短縮するにはぎりぎりの走りが要求されるため、グリップが希薄なマッド路面のアンダーステアに悩まされ、コンペティター達は思うようにアクセルが踏めず悪戦苦闘している。それでも徐々にアクセルワークにメリハリが生まれ、後半にはタイムが縮まっていた。日没後に開催されたナイトSSは、増水したパハン川の水が会場に流れ込んでしまい、タイムアタック中に水没車が発生したため、予定されていたSSは翌日に持ち越しとなった。その後パハン川の水位はみるみる上がり、深夜には会場一体が完全に水没してしまい、翌日に予定されていたシーマッド・ウォーリアは、残念ながら中止となってしまった。

 長雨が去り、晴天で迎えた翌朝、会場から少し離れた山の上に新たなコースが設定され、再びSSがスタートする。樹木の生い茂る鬱蒼としたジャングルと、切り開かれた広い高原のような二面性を持つエリアは、代替え地としては最高のロケーションだった。シーマッドクラスはジャングルエリアに作られたタイトなコースで、高低差のある地形を活かしたウインチ必須のハードコアルートとなっており、コドライバーが泥に足元をとられながら崖を駆け上がる姿が印象的。その動きは速く、そしてタフ。それもそのはず彼女達の多くは、マレーシアの伝統武術プンチャック・シラットやテコンドーの名手とのこと。その真剣な眼差しは、我々も近づきがたいほどの気迫に満ちていた。ジャングルの深い谷を下り、泥濘沢を抜けてマッディな長いヒルクライムを駆け上がるSSでは、エスクードで参戦したナザイヤ/リナ組が大苦戦。谷の下りで立ち木に挟まれウインチングで脱出するが、沢からのヒルクライム時にフロントドライブシャフトが破損し4×2駆動になってしまう。ゴールは目前だったためウインチングで8割ほど上るが、オーバーロードが原因でウインチのパワーがダウン。アンカーを取り直してダブルラインで引き上げようと試みるが、無情にもタイムアウトのコールが響く…。精根尽きた表情を見せたものの、広場にレスキューされて来た時にはこぼれるような笑顔が見えてひと安心。

 このシーマッドは、今年11月にペラ州で5回目の大会が開催される予定となっている。シーマッドに参加しやすくなるよう、大会期間前に初心者と上級者向けのトレーニングセッションを含むイベントプログラムが実施されるとのこと。次回以降は以前のようにマレーシア国内のみならず、海外からのコンペティター達も増えることだろう。いずれ日本から、大和撫子が参加する日が来るのかもしれない。

シーマッドクラスにエントリーしたこのジムニーは、トヨタの4気筒2,000ccディーゼルターボ2Cエンジンを搭載し、足回りもランクルのものが移植されロングホールベース化されている。


シーマッドクラスにエントリーしたエスクード。細身大径タイヤを履き、細部にまでカスタムが施されている。フロントはリジッドアクスルに交換されているが、最後のSSでドライブシャフトが破損してしまった。


ヘルメットやグローブ、そしてレスキュー用品や消火器など、レギュレーションに沿った装備のチェックも車検時に行われる。


スピードクラスにエントリーしたエスクードは、ウインチバンパーにウインチを装着し、サスペンションも交換しているものの、基本的にはノーマルらしさが残されている。


大会会場には医療チームが救急車と共に待機しており、けが人が発生した際の対策も万全だ。


マレーシアのテラノオーナーズクラブから、3台のテラノがスピードクラスにエントリーした。


かなり気合いの入ったキアのスポテージ。走り込んでいるだけあって、スピードクラスでチャンピンの座を手にした。


車検に使用されるチェックシート。日本の競技車検より厳しいのではないかと思えるほど、詳細なチェック項目がある。


ポータルアクスルやフルラムステアなどが組み込まれた、完璧なコンペティションマシン。シーマッドクラスを征したヨー/タヒラ組のランクル70だ。


スピードクラスにエントリーしたテラノD21は、シュノーケルからウインチまでフル装備。


ほぼノーマルスタイルでスピードクラスにエントリーしたテラノだったが、バランスの良さで健闘していた。


スピードクラスにエントリーしたキアのスポテージ。ボルネオ島では余り見ることがない車種だが、マレーシア半島では比較的メジャーな4×4となっているようだ。


ピンクのボディーでひと際目立っていたスピードクラスのキアスポテージ。ドライバーもコドライバーも、ピンクの衣装を纏っていた。


シーマッドクラスで二位を獲得したジムニーのフロントのサスペンションは、シャックルを後端側に移設したリバースシャックルとなっており、シャックルが当たるような急斜面へのアプローチで効果を発揮する。


ジムニーのオーバーハングに装着されたPTOウインチ。ジャングルで開催される競技では、ハイスピードなPTOウインチの装備が勝利への必須アイテムとなっている。


あいにくの雨の中、フラッグオフ式典が行われた。オフィシャルのハイラックスを先頭に、11台のエントラントが旗の下を通過した。



コンペティションは、ドライバー自らストップウォッチを押してスタート・ゴールするスタイル。


ファーストアタックのチームは、リスクを避けてウインチの使用を選択した。ウインチグッズを手に、躊躇せず深い川に入るコドライバー。


水しぶきを派手に上げながら、見事深い川をクリアするジムニー。自走でクリアするかウインチを使うかの判断は、経験値が大きく左右する。


泥でヌルヌルの路面はアクセルを踏めば曲がらない、しかしアクセルを踏まないと勝てない、というジレンマの中で走らなければならない。


クルマを降りれば、仲の良い女子グループ。シーマッドの空気感が、このような環境を作り上げる。


コドライバーがアンカーに向かっている時、ドライバーがウインチのラインを引き出す。ふたりで力を合わせて戦うのがシーマッドなのだ。

クルマを飛び降り、ウインチのアンカーを素早く準備する選手。シーマッドはモータースポーツとフィジカルスポーツの要素が持たされたコンペティションだ。


スピードクラスで谷側に落ちてしまったテラノは、自力脱出を試みるがタイムアウト。ウインチがあればと頭をよぎる。


SSでスタックしてしまったチームピンクは、突然工具を取り出してハブを分解し始めた。フリーハブの不具合が原因だったようだ。


スタックしてタイムアウトしてしまったが、レスキューされる女性は屈託のない笑顔をみせる。


シーマッドクラスの後半に設定されたSSは、スーパーハードコアなルート。急な沢下りでもウインチを使用し、ほぼ自走する事ができなかった。


ファイナルSSに設定された急なヒルクライムを、ウインチフックとアンカーグッズを手にコドライバーが駆け上がる。


PTOウインチのフックを引き、アンカーに向かう。PTO式は電動ウインチと違い、フリーのライン引き出しが軽く実戦向き。


シーマッドクラスで見事優勝を勝ち取った、ヨー/タヒラ組。メリハリのあるドライビングと、コドライバーの的確な判断が光っていた。

主催者:NURIN RED


ヌリン・レッド氏は、女性にリーダーシップと競争の場を作り、性別の障壁を打ち破り女性の認識を変えることを目指してシーマッドを立ち上げた。またスキルと安全を通して自信を生み、国境を越えて女性同士を繋ぐレースとして。さらに国際的なアドベンチャーツーリズムと地域経済の活性化も見据えている。