ジムニーJB23を完全分解する過程を通じて、四輪駆動車の基本構造とJB23ならではのメカニズムを、できるだけ分かりやすく紹介していく「JB23解剖学」。今回は原点に立ち返り、そのメカニズムからJB23の特徴に迫ってみる。
文/須永たつひと 写真/須永たつひと、編集部
協力/ジムニーJB23 パーフェクトメンテナンス編集部
4x4MAGAZINE2011年6月電子書籍掲載
構造から知るJB23の魅力
パーツリスト上の総部品点数は3,500
クルマの魅力と価値を究極的に探るには、機械としてのクルマの構造を把握し、ひとつひとつ検証していく必要がある。そんな持論をもとに、昨年私たち、カマド・ジムニーJB23パーフェクトメンテナンス編集部では、ジムニーJB23を徹底的に分解した。スズキのパーツカタログ上での構成部品の数は、およそ3,500点。中にはアッセンブリーで供給されるものも含まれているため、これが即ちクルマの構成部品の総数ではないものの、クルマは数多くの部品が組み合わさってできていることを、実際に知ることができた。

JB23 をコンポーネント単位で分解し、並べてみた。メーカーの組立ラインでは、ほぼこの状態の部品が用意され、シャーシーとボディーが組み上げられていく。
同時に気づかされたのは、ジムニー・JB23は洗練され、しっかりと作られているということ。コンベンショナルなラダーフレームに前後リジッドアクスルのサスペンションを組み合わせ、優れたオフロード走行性能を保ち続けているのは、決して保守的というのではなく、ジムニーの良き伝統。モダナイズされたデザインであっても、JB23は間違いなくジムニーなのだということを、そのメカニズムからも確認することができたのだ。
ジムニー・JB23の構成部品を完全分解し、ボディーのアウターパネルを剥ぎとり、そして自走可能なベアシャーシーを製作することで確認できた、JB23の「機械としての特徴」とは何なのか? 今回はJB23の「骨格写真」をもとに、解説してくことにしよう。
基本レイアウトに歴史を見出す
伝統を受け継いだシャーシーのレイアウト
JA11やJA12/22といった旧モデルのジムニーに比べ、全長・全幅ともにサイズアップしているJB23。しかし、そのパッケージングはジムニーの伝統を確実に受け継いでいる。
その一例として挙げられるのが、パワーユニットを比較的高い位置に搭載していること。エンジンの出力軸(アウトプット)はフレームのサイドメンバーより上にあり、トランスミッションやトランスファーは、フレームの下にほとんど突出していないことが、ベアシャーシー状態で観察するとよく分かる。ジムニーの優れたグランドクリアランスは、このパワートレインの搭載位置に起因するものなのだ。

トランスミッション本体がコンパクトなため、高い位置にあるにも関わらずフロアへの飛び出しは最小限。レッグスペースも必要にして十分確保されているのは、ジムニーの美点でもある。

リアの乗員は燃料タンクの真上に着座している。燃料タンクの前端がスラントした形状となっているのは、リアシートのレッグスペースを確保するため。フロアパネルもタンクに沿う形状となっている。
モノコックに似た内部構造
剛と軟を併せ持ったJB23 のボディー
JB23から一気に近代化された、ジムニーのボディー。しかし本当に大きな変化を遂げていたのは、デザインよりむしろボディー内部に秘められた「骨格構造」だ。
角張ったボクシーなデザインから、丸みを帯びたスタイリングに変化したJB23のボディーだが、そのアウターパネルを剥がしてみると、その内部に補強のガセットが入れられていることが分かる。
例えば、サイドシル。ボディーを外から見ると、断面積もさほど大きくなく、剛性があるようには見えないが、その内部には万が一の衝突時に乗員を保護するための、頑強なビームが追加されている。これは側突のみならず、前突時にキャビンが潰れるのを防止するためのものだ。

ルーフ側からB ピラーとC ピラーの内部構造を見る。とりわけB ピラー内部のガセットはしっかりとした構造で、シートベルトアンカーもここに固定されていることが、見て取れる。

サイドシル内部とドア内部のビームにより、側突から乗員を保護する。ドア内部のサイドインパクトビームは、前突時にキャビンの剛性を保つため、ドア開口部へ衝撃を分散させる構造となっている(両端)。
Bピラーも同様。ルーフと接続する上端には、「T型」にガセットが追加されており、衝突時にルーフが潰れるのを防ぐとともに、衝撃を分散させる構造となっている。
一方でAピラーより前のフェンダー内部は、意図的に剛性を落とし、クラッシャブル構造とされている。内部のビーム表面には凹凸が設けられ、前突時にはアコーディーオンのように潰れる。衝撃を積極的に吸収することで、乗員へのダメージを最小限としている。
「軽量衝撃吸収ボディー・TECT」と名付けられたJB23のボディーは、こうした「剛と軟」を併せ持った構造を採り入れることで、優れた安全性を確保しているのだ。
洗練されているシャーシー
コイルサスペンションを前提としたフレーム設計
JA12/22がリーフサスペンション用のラダーフレームを流用していたのに対し、JB23のフレームはコイルサスペンションを前提とし、完全に新設計された。その大きな違いは、まずラダーフレームの幅に見ることができる。
天地方向にスペースが必要なコイルスプリングを組み合わせるために、JB23のラダーフレームはボディー後方の幅を可能な限り拡げた形状とされている。これにより、リアのコイルスプリングをサイドメンバーの内側に配置するとともに、燃料タンクをホイールベース間に置くスペースを確保している。
リーフスプリングでは、シャックルを支えるフレームの前後端は相応の強度(剛性)が必要となるのに対し、コイルサスペンションでは構造部材を置く必要がないため、そこまで強度が求められない。
そのため、JB23のラダーフレームでは、前側のファーストメンバーはプレス構造とされ、前突時に積極的に変形することで衝撃を吸収する構造となっている。
一方のリアは、フレームエンドのファイナルメンバーが存在しない。万が一の後突時には、サイドメンバーが衝撃を吸収しつつキャビンを大きな変形から守る。燃料タンクがホイールベース間に置かれたことで、かつてのジムニーのようにオフロードでヒットする心配がなくなったのと併せ、後突時の安全性を向上させるための変更といえるだろう。
重いけど軽いJB23の秘密
最小限の重量増で最大の効果を
かつてのジムニーに比べ、とかく重くなったといわれることの多いJB23。実際、ATモデルは1トンに達しているのは事実だが、この数字だけで判断すると、本質を見失うことになりかねない。
衝突安全性の向上が図られたJB23は、ラダーフレームも中央部を中心に、旧来のジムニーに比べ大幅に補強され、フレーム単体で20kgほど重量が増加している。JA12/22とJB23の車重は、カタログスペックで50kgほど異なるが、ラダーフレームの重量増を差し引くと、その差は約30kg。ボディーサイズが一回り大きくなるとともに衝突安全性を確保し、パワーウインドウなどの快適装備が充実していることを思えば、軽量化に十分配慮し設計されていることが、数字の上からも見えてくる。
フロントのデフキャリアが、軽規格のJB23だけアルミ製であったり(JB33/43はスチール製)、あるいはトランスファーのステー(ブラケット)がアルミ製であるのも、車重の軽減を意図したもの。コストアップとなるにも関わらず、あえてアルミ製としているのは、それだけ軽量化を意識し、ジムニーが設計されていることの証でもある。
本格的なコンパクトサイズの四輪駆動車として、唯一無二な存在となりつつあるジムニー。初代LJ10の発売から40年が経ち、時代とともに現代的なスタイリングとなったが、そのコンセプトとアイデンティティーは、間違いなくJB23にも引き継がれているのだ。



