MB/GPW

HISTORIC 4×4 : MB/GPW

Jeepの、そして四駆の原点MB/GPW。第2弾(第1弾は特別版『4x4MAGAZINE for iPad 』に掲載)の今回は、走るためにレストアされた1台にも目を向けてみる。走ってこそ、ジープ。そんなファンやマニアも少なくない。何より、そのクルマとしての楽しさが直に伝わってくるからだ。

文/内藤知己

4x4MAGAZINE2011年6月電子書籍掲載

白石 清 氏
昭和23 年1 月、東京生まれ。軍用車両研究家。米国のオリジナル・ジープを中心に、数々の稀少な旧型軍用車両に命を吹き込んできたレストアラーとして世界的にも有名。現在、朝鮮戦争時代に使用されていたウイリスM38-A1 をレストア中。

“ 保存” が目的のGPW
“ 走行” が目的のMB

 今回は、白石氏が2001年春から約2年の歳月を費やしてレストアしたウイリスMB(1943年製)もご紹介、ということで、白石氏のガレージにお邪魔した。
 「このMBはね、走らせることを前提にレストアした。GPWはいわゆるミュージアムコンディションを目指したのに対して、MBはランニングコンディションってわけ」
 したがってこのMBには、日本の法規や交通事情に合わせたレストアが施されており、場合によってはオリジナル度よりも実用性や安全性が優先されている部分もある。
 保存が前提のGPWのほうは、エンジン内にグリスが注入され走行不可だが、このMBは白石氏の日常の足として使われているのだ。
 「個人的には、材質が良く造りも手間がかかってるMBの方が好き。クルマとしての完成度はフォードが作ったGPWの方が高いんだけど、量産のためにコストダウンされてる部分も多いんだよ」

工具棚には見慣れない特殊工具が山ほどある。レストアラーならではツールボックスだ。

車庫内にはかつてレストアした水陸両用ジープGPA も。これも登録済みの公認車両だ。

 「個人的には、材質が良く造りも手間がかかってるMBの方が好き。クルマとしての完成度はフォードが作ったGPWの方が高いんだけど、量産のためにコストダウンされてる部分も多いんだよ」
 弱小メーカーであったウイリスがひな形を作り、フォードが量産車として完成させた…MBとGPWはそんな関係にある兄弟車なのだ。
 白石氏お気に入りのMBも、オリジナルにこだわったGPWと同じく、レストアはこの自宅ガレージで行われた。
 現在、主要な設備は那須の工房に移設され、東京の自宅ガレージは車庫としてのみ使われているが、かつては多くのジープがここで息を吹き返し、旅立っていったのだ。

通称ゴーデビル・エンジン。オリジナルは2,199cc。シリンダー脇に吸排気バルブが配置されるサイドバルブ式。前軸の後方にエンジンを配置するミッドシップレイアウトが採られている。

電装を6V から12V へ
日常の足としての配慮

 さっそくMBを車庫から出し、エンジンを始動する。イグニッションキーをひねり、必要に応じてチョークノブを引き、かかとでアクセルを開け、爪先でスターターボタンを踏む。ゴーデビル・エンジンは軽快なセルモーター音とともに目覚める。
 「オリジナルは6V電装なんだけど、始動性とかバッテリーのことを考慮して12V仕様にしたんだよ。バッテリーはもちろんのこと、6V電球すら探すのに苦労するからね」
 日常の足として使用するためには、補修部品はできるだけ手に入りやすいモノを使いたい。ただし、この始動方法のように、オリジナルならではの味や、アイデンティティに関わる部分の変更は徹底して避けられているのだ。

数十秒でフルオープン
現代では大きな“ 魅力”

 現行型国産四駆では、悲しいかなウインドシールドまで倒せるフルオープン・モデルはカタログから姿を消してしまったが、これを簡単に気軽にできることも、MB/GPWならではの楽しみのひとつだ。
 「最近は四駆だってエアコン入れっぱなしで、空気の良いトコでもみんな窓締め切ってるよね。もったいない話だよ」
 白石氏にとっては“風と一体になれる”ことも、ジープから離れられない理由のひとつだという。ウインドシールドが倒れるのは、もちろん当時の戦争中に必要とされた機能のひとつだが、どんな状態でもサマになるこのデザインには、あら
ためて感服させられる。

合わせガラスの入ったインナーフレームは跳ね上げ開閉式。

走ってこそJeep
誰にでも親しまれる車

 暖機を済ませ近所を流す。風が心地良い。力強い加速と軽快なハンドリングが楽
しい。住宅街を抜け、人通りの多い商店街を通過する時、人々の視線が集中。みんな笑顔で見ている。中には「写真撮ってもいいですか?」と声を掛けてくる人も。子供からお年寄りまでこんなに親しまれる車が他にあるだろうか?
 「保存するためのレストアも必要だけど、こうして実際に走るためのレストアも大切。そのためにオリジナル度に関しては妥協しなきゃならない部分も出てくるけどね」と語る白石氏。デザインやメカニズムの優秀さを語る時と同じくらい嬉しそうな表情が印象的だった。

ウインカーは三菱ジープ用を使用。

サイドミラーも三菱ジープ用。

メインキーはオリジナルを使用。

制動灯は安全のため左右に設置。

アイドリングが安定すると、ブロックは微動だにしない。的確な整備に応えられる優秀なメカニズムを持つ。

SPECIFICATION /フォードGPW

■車体番号……………………………………….242581
■軍登録番号……………………………..20589122
■製造年月……………………………1944 年12 月
■全長× 全幅× 全高……………………………………..
3,359.2mm × 1,574.8mm × 1,771.7mm
■ホイールベース………………………. 2,032mm
■トレッド(F/R)………………….. 1,244.6mm
■最低地上高………………………………. 222.3mm
■乗車定員……………………………………………….5 名
■車両重量………………………………….. 1,112.7kg
■最大積載量…………………………………. 362.9kg
■車両総重量……………………………… 1,475.6kg
■アプローチ角…………………………………….45 度
■ディパーチャー角…………………………….35 度
■エンジン…………….. 水冷直4 サイドバルブ
■総排気量……………………………………….2,199cc
■ボア× ストローク………..79.375mm×111.125mm
■最高出力………………………54HP/3,700rpm
■最大トルク……………….98ft-lb./2,000rpm
■圧縮比…………………………………………..6.48:1
■使用燃料…………………………………..ガソリン 
■タンク容量…………………….. 56.78 リッター
■トランスミッション形式……………3 速MT
■変速比
.1/2.665 2/1.564 3/1.000 R/3.554
■副変速比………………………..高1.00/ 低1.97
■最終減速比………………………………..4.875:1
■サスペンション(前後)
………………………車軸懸架式リーフスプリング
■ブレーキ(前後)…………………………….ドラム
■駐車ブレーキ………………機械式推進軸制動
■タイヤサイズ………………………6.00-16-6PR
■ホイールサイズ……………………….4.50E×16