2006年 HISTORIC4x4GRAFFITI掲載

軽4×4の始祖となった幻の名車

今では想像できないことだが、戦後から1960年代にかけて
日本には数多くの自動車メーカーが存在し、そして消えていった
ここで紹介するホープ自動車もそのひとつだが
その傑作ホープスターは日本の4×4史上に燦然と名を残している

開発者の熱意が生んだ傑作
しかし生産期間はごくわずか

 ホープスターの開発元であるホープ自動車は、1956年に3輪トラック・ホープスターSU型を世に送り出した3輪トラックのパイオニアであり、トップメーカーとして認知されていた。しかし、大手メーカーの軽4輪トラックの台頭により苦戦を強いられ、軽4輪トラックを開発して対抗したものの、1965年には自動車の製造から手を引いていた。
 しかし、その後、根っからのクルマ好きである同社小野定良社長の「大量生産、大量販売を目的としたものではなく、これからは使用目的を絞り込んだ状況で使われる車作りが必要だ」という判匠とのただならぬ熱意により、軽自動車枠に収まる不整地用万能自動車として開発されたのが、ここで紹介するホープスターON型である。
 1967年にON型の試作車が完成。翌1968年に販売が開始されたが、同年ホープ自動車は自動車製造から撤退することになった。独創的だったON型の製造権は、数台のサンプルとともに鈴木自動車(現スズキ)に買い取られて、後にジムニーLJ10が生まれたのだ。ちなみに、工場から送り出されたON型は50数台だと言われている。ON型のエンジンは、排気量359㏄強制空冷2ストロークの三菱製ME-24型。当初は自社製エンジンが搭載される予定だったが、ミニカに搭載されていたME-24型エンジンをトランスミッションごと流用している。また、プレーキ系統は、ダイハツ・コンパーノのものが流用されている。当時のホープ自動車にとっては、全てを自社で開発・製造するよりも、他社から手に入れた方がコストや手間はもちろん、供給といった面でも好都合であったのだ。ME-24型エンジンのスベックは、最大出力21PS/5,500rpm、最大トルク3.2kg-m/3,500rpmと今から見ればかわいいものだが、調子が良ければミニカとは似ても似つかないホープスターを70km/h巡航させることができたという。
 コスト削減の結果は、デザインにも表れている。ボディーパネルには平面構成が多く用いられ、結果ユニークなシルエットを身にまとうことになった。しかしながら、充分なボディー強度を持たせるために、鋼板を薄くしてコストを下げるといった姑息な手段は一切考えられていない。

メーターバパネル裏側に型式認定番号を記したプレ―トが貼られている。[運輪省]ならぬ[運動省]とはご愛敬。

ホーンボタンにあるHOPE STARのロゴが、なんともノスタルジックな雰囲気を醸し出している。

取材車両のフェンダーミラーとウインカーは、残念ながらオリジナルではない。もちろん、既に入手不可能となっている。

独特のパワートレインを搭載
すべては悪路走破性向上のために

 メカニズムで注目すべきは、パワートレインのレイアウトだ。ジープのようにトランスファーをトランスミッションの脇に置くのではなく、エンジンからのパワーを一旦トランスミッション後方へ出し、そこに上下に組まれた3軸式トランスファーを置いて、前後に駆動力を配分するというシステムだ。この3軸トランスファーには、上、右、左の3方向に設けられたPTOの取り出し口があり、文字通りの万能車として、容易に動力が取り出せるようになっている。また、このトランスファーには4Hのポジションが設けられていない(つまり2Hと4Lのみ)こともユニークな点だ。当時の開発者によれば、ジープと同様の大きなサイズのロードホイールを装着しており、これを4輪すべて回すとなると、エンジンの負担も相当になるからだ、ということであったらしい。また、4×2でも70km/h程度が最高速度だったこともあり、4Lがあれば充分だろうと判断されたようだ。前後デフには、コルト1000バン用が流用されている。これを吊るリーフスプリングは、およそ軽自動車用とは思えないほど丈夫なもの。不整地走破を目的としたクルマであり、脚まわりに関しては全てがオーバークオリティーだ。いや、脚まわりだけではない。開発者をして、「ONで軽自動車と言い切れる郁分は、エンジンの排気量と車体寸法ぐらい」と言わしめるほど、ONはロードカーとしてすべてが妥協なく造りこまれていたのである。
 ONのサイド・ビューは、非常に腰高で、腹下がスカスカしている。これは、不整地用万能車という開発コンセプトを実現するために、充分なロード・クリアランスを確保した結果だ。エンジンをはじめとするパワートレインは、極力上の方へと持ち上げられており、車格に対してかなり大きく見える6.50-16-6PRサイズのタイヤを装着し、それらが四隅に追いやられているのも、ロード・クリアランスを極力確保するために導き出された手段なのだ。これにより、デフ下の最低地上高は240mm、ボディー中央部トランスファーケースの下では400mm以上のクリアランスを確保している。360ccという非力な小排気量エンジンゆえ、少しでも悪路走破性を高めるには、これが一番確実な方法なのである。

悪路走破性に対し妥協なく設計され、軽4×4のジャンルを開招したミニマム4×4

フロント・ハブは、オープン・フランジのいかにも頑丈そうなもの。グリスアップ・ニップルが付いている。

トランスファー・レバーの横には取扱説明書が貼られている。シフトパターンは一直線で、4Hはなく、2H・N・4Lの3ポジションとなる。

可倒式のフロントウインドゥはストラップによってフェンダ一部から固定される。ボディーカラーはオリジナルだ。

 今から40年近くも前、本当にクルマ好きな人たちが、自分たちの作りたい四駆を作った。「軽のジープ」というひと言で片づけてしまえばそれまでだが、初めて4×4システムを導入した軽自動車であり、あくまでクロカン4×4の基本に忠実に悪路走破性を追求していること、そしてこの思想が今日まで受け継がれ見事に成功していること。こうしたことを考えるとONは「名車」と呼ぶにふさわしく、また自動車史的にもその存在価値は大きい。しかし、1987年の4x4MAG.取材時でさえ現存するホープスター0Nはたった2台と言われた超稀少車。そのどことなく愛らしいフロントマスクを、少しでも多くのクルマファンの記憶にとどめて欲しい。

もはやシンプルとも形容しがたいコクピットまわり。パーキングブレーキは2系統あり、ステッキ式は推進軸を、レバー式は後輪を制動する

前後共にリーフは4枚で、4番リーフはヘルパースプリング。ジムニーのものよりもずいぶんゴツく見える。

フロントアスクルのナックル部は、付け根部分が細く、折ってしまうトラブルが多かった。ここが補強された車両もある。

2シリンダーの2ストロークエンジンらしく、2つの点火系を持っている。右端のタンクは2ストオイル用だ。

プロペラシャフトの上に見えるワイヤーが後輪制動用。ブレーキマスターシリンダーは、運転席下に収まっている。

SPECIFICATIONS

  • 車名/年式: ホープスター (ON)/1968年
  • 全長×全幅×全高: 2,995 × 1,925 × 1,785mm
  • ホイールベース: 1,950mm
  • トレッド:  前/1,100mm 後/1,100mm
  • 最低地上高: 240mm
  • 車両重量: 620kg
  • 乗車定員: 2名
  • 形式: 強制空冷直列2気筒2ストローク
  • 総排気量: 359cc
  • 内径×行程: 62.0 × 59.6mm
  • 圧縮比:  7.6:1
  • 最高出力: 21PS/5,500rpm
  • 最大トルク: 3.2kg-m/3,500rpm
  • 燃料/タンク容量: ガソリン/20L
  • トランスミッション形式: 4速MT
  • 駆動方式: パートタイム4×4
  • 変速比: 1速:3.363 / 2速:2.350 / 3速:1.491 / 4速:1.000/ 後退:4.652
  • 最終減速比: 5.857
  • ステアリング形式: カム&レバー
  • サスペンション 前: リジットアクスル式リーフスプリング 
  • サスペンション 後: リジットアクスル式リーフスプリング
  • 主ブレーキ:  前: ドラム 後:ドラム
  • タイヤサイズ: 6.00-16 6PR